でも、ドキドキする。
あたしを名前で呼ぶ男の子なんて、蒼くん以外にいなかったんだもん。
「じゃあ……美紗、って……呼ぶな?」
「は、はいっ」
「プッ」
かしこまった返事をしてしまうと久我くんが噴き出し、あたしもつられて笑う。
久我くんの顔はほんのり赤いけど、きっとあたしだってそうだ。
ううん。久我くんより赤いはず。
あれ?
あたし今、素直に嬉しいって思ってる。
久我くんと距離がまた縮んだこと。
「じゃあ、帰るか」
「うん」
「付き合ってくれてありがとな」
「どういたしまして」
立ち上がって隣に並んだあたしは、そっと久我くんを見上げて。
出かかった声を押し戻す。
"……あたしも、凛太朗くんって呼んでいい……?”
そんな風に言う勇気は、あたしにはまだなかった。