もしかしたら、お兄ちゃんは病室から桜園高校を見たりしていたのかな……。


余命が告げられ、他の病院に移ることを勧められていたのに、お兄ちゃんは頑なにそれを拒んだ。


その理由はわからなかったけど。


もしかして。


向こうからもここが見えるなら。


お兄ちゃんは、最期まで陽菜ちゃんの近くに居たかったのかもしれない。


そうだよ、ぜったい。



「……っ」



おさまったはずの涙が再びこみ上げ、視界は滲み、鼻の奥がツンと痛くなった。


お兄ちゃんの最期のときに見た、陽菜ちゃんの泣き顔が脳裏に浮かんだ。



……あたしはただ、失恋しただけ。


お兄ちゃんを永遠に失ってしまった陽菜ちゃんに比べたら……失恋なんて。


陽菜ちゃんのつらさに比べたら、あたしのつらさなんてすごくちっぽけなものに思えて。


鈍い痛みが、胸を突き刺した。