「いい眺めだね」
一面ここより背の低い建物ばかりが広がっていて、とても見渡しがよかった。
色とりどりに連なる家の屋根。
のんびり走る自転車。
ベビーカーを押すお母さん。
そこには、ありふれた日常が広がっていた。
なんだかとても穏やかな気持ちでそんな景色を眺めていると。
「あ……」
ある一点で目が留まった。
それは、見渡す中では、唯一ここより背の高い建物。
――ドクン。
胸の中で、ひとつ大きく鼓動が鳴った。
「どうかした?」
「……あの建物……病院なんだけどね。お兄ちゃんが入院してた病院なの」
「えっ、そうなんだ……」
ここから見えるんだ。知らなかった。
ってことは、向こうからもここが見えるのかな。