「郁人先輩が完璧で彼氏にするには申し分ないくらいいい人なのは知ってるし、付き合ったら愛してもらえて、大事にしてもらえるんだろうなぁとかって想像もできる。でも、あたしがしたい恋愛は、そういうんじゃないんだよね……」



窓の外を見て話す伊織ちゃんの顔は、いつにも増して乙女だった。



「完璧な人じゃなくても、お互いに言いたいこと言いながら成長しあえたり、笑いが絶えなかったり、たまには喧嘩もしてみたり」



……まるで、誰かに恋をしているみたいに。



「それに、あたしだって周りが思ってるような人間じゃないもん。僻んだりもするし、ワガママにもなるし機嫌だって悪くなる。そんなダメなところも受け入れてくれて叱ってくれて……って、そんな人いないか」



言って、えへって笑う伊織ちゃんだったけど。


あたしは知ってる。

ひとりだけ。


でも、それは言っちゃいけないような気がした。


自分で気づかないと意味がないもんね。



「そんな人がいるといいね」



伊織ちゃんから、相談される日まで言わないでおこうと決めた。


その相手は、すごく近くにいるかもよ……って。