そうだ。
兄貴……って言葉を連呼されて、あたし、呼吸が苦しくなったんだ。
ドキドキしていた気持ちが、一瞬で切り替わる。
あたし、お兄ちゃんのことを人に触れられると、自分でもよくわからない感情に襲われる気がする。
蒼くんと話しているときは、べつ。
お兄ちゃんのことを話せていない人に触れられて、どう答えていいかわからないと同時に、寂しさ、悲しさが生まれて。
気持ちが追いついていかないんだ……。
「お待たせ」
制服姿に戻った蒼くんが、小走りでやってきた。
ドキッ。
第二ボタンまで解禁した胸元で緩く結んだネクタイ。
無造作だけど、決まっている栗色の髪。
切れ長だけど優しさを携えた瞳に、口角のあがった薄い唇。
蒼くんを象るそのすべてが、愛おしくてたまらないよ……。