私たちは大人になった


カーテンの隙間から、光が漏れている。
側には暖かいひとの体温。
筋肉質なその腕に抱かれて、私は太陽で少しずつ外が白むのを見ていた。
耳が拾うのはカチカチと規則的に鳴る時計の音と、すうすうと穏やかな寝息。
初めてこの部屋で迎える朝。

多分、幸せとはこう言うことをいうのだろう。
なんてことのない日常が、この上のない幸せだと感じられる。
いつもと違う朝が、やがていつも通りの朝になっても私はこの幸せを忘れたくないと思う。

「……ん、おはよう」
「おはよう」

寝返りをうって、まだ寝ぼけ眼の大切な人を見る。
寝起きの顔は初めてで、これだけ長く一緒にいてもまだまだ初めてのことはきっとこれからも沢山出てくるのだと知る。
その一つ一つを大切な思い出に変えていけたら、やがてそれも幸せになるのだろう。
優と過ごす時間は、やはり永いようでいて儚い。
だからこそ、大切にしたい。
じんわりと心が暖かく満たされ、穏やかに笑みが溢れた。

「どうしたの?」

頭を撫でられ、その温もりに眼を閉じた。

「曲がりくねって、たくさん遠回りしたかなと思うけど……、幸せだなと思って」
「そっか」
「うん」

私の頭を撫でてる優の手は、優しい。
そうか、それをようやく実感できるほどにお互いに今、同じ気持ちでいる。
母が言っていた言葉を思い出す。

“悩みなさいよ、たくさん。その時間が無駄じゃないって思えたら、立派な大人よ”

どんな遠回りでも、ひとつ間違えればここにたどり着けなかったかもしれない。
だから多分、私たちが過ごした時間は無駄じゃなかったはずだ。
完全ではなくても、それに気付けるくらいには私たち、きっと、大人になれたのかもしれない。

優の手を止め、手を合わせる。
続いていくふたりの道を、これからも。

「ありがとう、優。これからもよろしくね」





私たちは大人になった・完