凛と響くその声は、私も知っている人のもの。



「…椎先輩…?」


椎先輩が息を切らしてそこに立っている。

水浸しになった私を見た椎先輩は目を見開くと近づいてきて、制服の上着を私にそっと掛けてくれた。

先輩の体温が残る上着が暖かい。


「…大丈夫?」


先輩はしゃがんで私と同じ視線に立つとそう尋ねた。眉を下げて、申し訳なさそうな顔をしている。


「ごめん、来るの遅れて」


ごめん、と先輩は私の頭を撫でる。


…分かんないよ、先輩。

どうして先輩がそんな顔するのか。ここにいるのかすら。

思考がまとまらないよ…。


先輩は立ち上がると振り返って女の子達を睨みつける。



「ねえ、質問してるんだけど。答えてくれるかな。


これは、なに?」



まるで、凍てつく氷のような冷たさだ。

先輩の言葉には氷のような鋭さがあった。



「し、椎くん、その、これは…」


それは味方であるはずの私でさえ恐怖を感じるほどで、女子達は顔を引きつらせて後ずさりする。


「寄って集(たか)って、みんなで麗ちゃん虐めてたってことだよね?」


女の子達は青ざめながら、「し、椎くんこそ、なんでこんなのを庇うの?」と問うた。

その声に椎先輩の眉がぴくりと動く。


「椎くん、騙されてるんだよ。こいつがどんなやつか分かってるの?こいつは…」


「うるさい」


ぴしゃりと言い放った先輩の圧力に女の子達は押し黙る。