突然のことに驚いて足下がふらつく。

じんじんと痛む頬を抑えて女子達を見ると「名乗れよ」と見下している。


頬の痛みは思考回路の動きを鈍くする。

正常な判断なんてもうできなくなっていた。

与えられた頬の痛みが、あの日の痛みを思い出させる。

初めて他人から殴られた時の痛み。


『お前なんかいなければ良かったのに!』


フラッシュバックする記憶は、声は、悲しいほど鮮明に脳裏に映る。

あの日の恐怖も変わらないまま。



「あ…」


声は出たけど言葉にはならない。

浅い呼吸しか続かず、空気も酸素も回らない。

視線だけはあっちこっちに移り変わって定まらないどころか目が眩みそうだ。

恐怖はやがて震えに変わり、全身に広がっていく。


けれどそんなこと微塵も知らない女子達は、震える私を見て心底楽しそうに笑った。


「たった1回殴っただけでこんなに怯えてる」

「ほんっと、弱っちいねえ」

「いいからお前は質問に答えろよ!」


鋭い痛みが頭に流れる。

拳で頭を殴られた、その衝撃に視界が揺れた。

思わず倒れてしまった私を見て、女子の一人が大声をあげる。


「えっ、あんた、清水麗!」


殴られた拍子に眼鏡が飛んだらしい。

あわてて眼鏡を探すけど、それは数十センチ向こうの地面に転がっている。

…ああ、寄りにも寄って最悪の展開だ。

バレたくなかったから、わざわざ眼鏡をかけていたというのに。

確実に血祭りにあげられる。