「お前は本当にやらかしてくれたな。玄関横の鉢植えはうちの園芸部がわざわざ作ったものだったんだよ、分かってんのか!返事しろ!」


さすがは泣く子も黙る鬼村。私だって返事したくてもできないくらいに怖い。

頭ごなしに怒る人は昔から苦手で、まともに話せなくなってしまう。甘えではなく、本当に声が出なくなってしまうんだ。


「お前が…」


「失礼します、鬼村先生」


凛とした声が聞こえてきて振り返ると、そこには自分よりは年上だろう男子生徒がいた。



「どうした、氷室(ひむろ)」



氷室という名前は聞き覚えのある名前だった。

どこで聞いたっけ、と少し考えると、学校でも一番のイケメンだと有名なあの氷室椎(ひむろ しい)先輩だと思い当たった。

黒い髪、切れ長の瞳、整った顔立ち。

どれをとっても氷室先輩に間違いない。


「今、取込み中なんだが」


鬼村先生の威圧的な視線にも負けずに、椎先輩は「そのことでお話があります」と言い張った。

それからちらりと私を見ると、もう一度鬼村先生を見据える。

視線が合った瞬間、息ができなくなったかと思うほどにぎゅっと胸が締め付けられた。