最初は早足で、だけど次第に速度はあがっていって、最終的には走っていた。


廊下を走るなと怒る先生の声も、部活に勤しむ生徒達の声も耳に入ってこない。


ただ自分の鼓動の音と切れた息の音だけが、いやなほどはっきり聞こえる。


夕暮れのあかりしかない廊下は奇妙なほど薄暗くて、窓の外から差し込んだ目の奥を焼くような赤に目を細めた。


…息が苦しい。


酸素の回らない体、藻掻くように駆ける足。

呼吸のたび上下する肩、助けを求めるように動かす視線。

回り続ける思考は止めどなく、ひたすらに浮かんでは消えていく。

狭まった視界に映る淀んだ世界は、まるでどこまでも広がっている迷路。

走る私はアリスみたいに、ただこの暗闇から抜け出せるゴールを求めていた。







「__麗ちゃん!」






鋭い声が、私を呼び止めた。

心臓がどくんと大きく鳴って、外界と繋がる音が聞こえた。

私は足を止めてあがった息を整えながら、その声が聞こえた方に振り返る。


「そんな走って、どーした?」


「ユズ先輩…」


会うのは少しだけ気まずい、ユズ先輩が心配そうな顔をして私をみていた。