「だからお母さん、夜は家に帰れたの。助かったわー」

母はまだしゃべり続けていた。

「そんな心配そうな顔しないの。
はると君、仕事が終わったら来てくれるから、ね」

やたらと自信満々の『ね』
母がそう言うと、本当に起こりそうだと思えるから不思議だ。

なんでもないって風に雑誌に目を落とした。

これは私が決めたことなんだから……


コンコン

タイミング良くドアをノックする音。

「ほらね」

母がそう言って「はーい」と返事をしている。
でも今のノックの仕方は大野さんじゃない。
彼はこんなにゆっくりとはノックはしない。

「こんにちは…」

だけど、カラカラと開いたドアから顔を出したのは、大野さんとそのお母さんだった。