少しだけ開いた教室の窓から、温かい春の風が入り込む。 外では咲き始めた桜が風に揺られている。 黒板にはよくわからない数列と、よくわからない説明をする数学の先生。 窓際の後ろから二番目の私の席の前には、秋樹の背中。 染めたことのない黒髪が太陽の光に透けて、細く見えて意外と筋肉のついた背中は、少しダボっとした紺色のカーディガンに隠されている。 あ き 。 もう数え切れないほど呼んだ、その名前を。 私だけが呼ぶ、きみの名前を。 声には出さないように、きみの背中に向かって口だけ動かした。