「優しいってったって、これは…」

クラリスの言葉に反論しようとした男性に、料理長は鬼の形相で「油売ってんじゃねえ!」と拳骨を落とす。


「りょ、料理長!」

男性の顔がみるみる青ざめていく。膝がガクガクと震え始めた。


「このクソ忙しい時に仕事サボって何してんだ、てめえは!」

「すっ、すいやせん!」

「クラリス殿だって仕事があるんだから邪魔をするんじゃねえ!てめえはとっとと皿でも洗ってこい!」

「はい!」と大きな声で返事をした男性はまるで風のように調理場の奥に走って行った。

「ったく、あの野郎」

怒る料理長に、クラリスは「すみません」と頭を下げた。


「私が先ほどの方に菓子を聞いたのです。なのであの方は悪くありません。怒るのなら私を怒ってください」


すると料理長は「それがクラリス殿の仕事だろう」と溜め息を吐いた。


「俺はただ、あいつがフォルスト王やランティス様のことを言ったから腹が立っただけだ」


「このクソ忙しい時に無駄なことを喋りやがって」などとブツブツ呟きながらクラリスに背を向けて調理場に戻っていく。


「ああでも、クラリス殿が言った言葉は良かった」


振り返ってクラリスに言う。


「ランティス様の優しさを理解できるやつはそういない」


それから料理長は調理場の奥へと戻っていった。