「ベルンハルトが描いた肖像画を見て以来、俺は君を探し続けていた。生まれながらの貴族としての気品と困難な状況でも生き抜けるしたたかさ。それを持つ君は僕の理想の女性だ。……俺は第二王子で、王位は兄上が継ぐ。しかし野心家な貴族たちは、病弱な兄上に代わって俺を王に立てようと自分の娘との縁談を押しつけてくる。だから俺は、野心のある親族がいない女性をずっと探していた。その点でも君は条件を満たすんだ。……どうか俺の妻になってほしい」


一貫して表情に乏しいパウラだったが、この申し出には流石にあっけにとられた顔をした。


「は……何をおっしゃっているの? 私は人妻だし年齢だって……三十三歳になるのよ。王子様と結婚なんてできるわけがないじゃない」

「アンドロシュ子爵は届を出していない。形式上は君はただのクライバー子爵家の生き残りだ。既に没落したとはいえ生まれながらの貴族で、年齢はたしかに上だが、外見じゃ全然分からない。俺の隣に立って引けを取るとは思えないな。俺は二十三歳だが少なくとも十歳も年の差があるとは見えないだろう」


金髪に緑色の瞳、派手な顔つきのクラウスに、毅然とした美しさを持つパウラ。並んでみればたしかに絵にはなる。しかしパウラは頑なに首を振る。


「でも、私は一度でも子供を産んでいるわ。第二王子の妻に、後妻あがり女はふさわしくない。どうしてもというならローゼのほうが適任よ。同じ顔でも若くてまだ蕾のような女性だわ。国民が喜ぶのはそういう女性よ」


パウラはローゼを仰ぐ。同じ顔だが、こちらは無垢の塊といった様子で、突然の指摘への驚きが表情から見て取れる。

クラウスはパウラの顎に手をあて持ち上げた。
少しくすぐったそうにしながらも表情は大きく変わらない。クラウスの返答を待っているのか、彼の口もとから目をそらすことはなかった。クラウスはその顔に口づけしたい衝動を押さえながら続ける。