「知ってはいたけど、聞けば聞くほどズルい男だよね。腹立たしい」

日曜日の十四時半。二週間ぶりに菜穂の部屋を訪れ、会わない間にあった宮地との出来事を話すと眉間にシワを寄せられた。

ローテーブルの上には白いカップが置いてあり、中に入った紅茶が湯気を立てている。

ちなみに、カップの数は三客。
菜穂と私の分と……あと、部屋に顔を出すなり菜穂にケーキを買ってくるようにパシられた涼太の分。

菜穂が指定したケーキ屋さんは片道徒歩十分ってところだから、もうそろそろ戻ってくる頃だ。

「ズルい……まぁ、ズルいのかなぁ。私が好きだからそう感じるだけで、恋愛の価値観なんて宮地の勝手かなぁとも思うけど……」

カップを口まで持っていきひと口飲むと、紅茶のいい香りが鼻に抜けた。

菜穂は昔から紅茶を茶葉から淹れてくれる。
中学の頃からそれを遊びにいくたびに飲んでいたからか、紅茶に関してはいつの間にか舌が肥えてしまった。

自分じゃ淹れられもしないから、ティーパックだといまいちだなんて感じるようになってしまったのは困りものだけど……。
こうして飲むと、やっぱり茶葉から淹れた紅茶は味が違うのだからもう仕方ない。

私のアパートから徒歩十分のところにある菜穂の部屋は、1LKDでひとり暮らしにしては多分そうとう広い。
涼太の部屋も同じように1LDKでとても広く、とてもじゃないけれど二十代前半の社会人が住めるような物件ではないのだけれど、そのカラクリはマンションオーナーにある。

オーナーが両方とも向井家のお父さんなのだ。

名の知れた不動産屋の社長をしているおじさんは、いくつもの優良物件のオーナーもしている。
だから、菜穂と涼太は格安で部屋を借りていて、おじさんには『知花ちゃんのところも安くしてあげるよ』と言ってもらったのだけど、さすがにそこまでは甘えられないと断った。

正直、魅力的な誘いではあった。
でも、家族ならまだしも、私まで甘やかしてもらうのはおかしいからと、断腸の思いで断った。

ちなみにだけど、向井家の実家はとてつもなく大きい。
菜穂に招待されて初めて向井家に行ったときには、自動で開くシャッターや、おじさんが趣味で集めているという高級車数台を見て言葉を失ったくらいだ。