「磁気がとぶって、なんで? いえね、こないだもそうだったのよねぇ。ATMの長い列並んでやっと私の番がきたと思ったら、通帳が読み取れないとかエラーが出て。で、窓口に持って行ってとか出るでしょう? それが面倒だからATMにきてるっていうのに」

はぁ……と本当に嫌そうな顔で言われ、作業しながら相手をするのも失礼かと思い、手を止める。

それから、後方事務に入っている佐藤さんに磁気を直してもらうようお願いし、お客様と向き合った。

「申し訳ありません。通帳の裏の黒い部分に、お客様の情報が入っているんですが、この部分を携帯ですとか電波が出るもの、あとはバッグについている磁石などの近くに置いておくと読み取れなくなってしまう……」

「まったく同じことを前回も言われたけど、仕方ないじゃない。通帳をそのまま持って歩くわけにもいかないし、バッグに入れなくちゃ無用心でしょう? 
わざわざ通帳入れるために、磁石のついていないバッグ買うのもバカバカしいし。私はこのバッグが気に入って使ってるのよ」

気持ちはわかるだけに、曖昧に笑い「そうですよね」と話を合わせる。

「バッグの中には当然携帯だって入れるもの。ね? 私なにもおかしなことしていないのに、それで通帳がダメになるって言われてもねぇ……。あなたどう思う? 
銀行はなにかと手数料とるけど、お客にこんな手数かけてるんだから、むしろ銀行側が払ってもいいんじゃない?」

同意を求めるように話を振られ「本当に面倒をかけてしまい申し訳ありません……」と謝っているうちに、うしろで「通帳の磁気直りました」と、コトンとカルトンが置かれる音がしたから、手を伸ばす。

受け取った通帳は磁気が直り、無事記帳もされていた。