中学の頃の涼太は、それはもう美少年だったから、電車なんて乗ると痴漢に遭うことも少なくなかった。

一番最初こそ、まさかって驚きからか何も言えなくなっていた涼太の代わりに私が〝犯罪ですから〟って怒ったけど。
二度目からは、こういう性格の子だから、痴漢してきた人は片っ端から『俺のどこが女に見えたんだよ。あ?』なんて言いながら締め上げたりしていた。

でも、それは本人の中では黒歴史らしく、中学の頃の話をするだけで涼太はいつも不機嫌になってしまう。

学生時代、あまりに可愛い可愛い言われ過ぎたからなのか、涼太はそのへんに少し過敏だ。

たぶん、誰よりも〝男〟に憧れというか、誇りみたいなものを持ってるんだろうなぁ……と思うと、可愛いくて顔がにやけてしまう。

「なにひとりで笑ってんだよ。チビ」

……たとえ、どんなに口が悪くても。



電車を下り、駅から十分ほど歩いたところにある分かれ道で「じゃあ、またね」と声をかけると、涼太はなぜか私のアパートの方の道をスタスタと歩く。

「涼太、道違うよ」
「知ってる。いいんだよ、こっちで」

「でも、そっちだと私のアパートの方……」と言いかけたところで、涼太が顔半分振り向く。

街灯の下、明かりに照らされている顔立ちが、幼さと〝男〟の割合を変えたように見えた。
綺麗で大人っぽい表情に一瞬ドキッとする。

「飲み会で食いすぎたから、腹ごなしに遠回りして帰る」

決して素直じゃない言葉に、傲慢な態度。

「なにしてんだよ。早く歩け」

照れ隠しの、不機嫌な顔と声。

頭にくることはあっても、やっぱり可愛いなぁ……と思いながら「うん」と返事をして涼太の隣に並んだ。