涼太の荷解きを手伝いながら『どうせなら菜穂と同じアパートにすればよかったのに』と何気なしに言ったら『俺はシスコンじゃねぇ』と睨まれてしまったのは、まだ記憶に新しい。

私は兄弟がいないからよくわからないけれど、まぁ、たしかに大人になってまで一緒にいる姉弟はあまり見ないかもしれないなと後から思った。

駅に到着した車両が停止しドアが開くと、そこから湿気を含んだ空気が入り込んでくる。
満員とはいかなくても、車内はほかの乗客と肩が触れ合ってしまう程度には混んでいた。

ため息を落としていると、ぐいっと身体を押される。
なにかと思えば、涼太が私をドア前に押し込んだところだった。

入口付近だと出入りの邪魔になるのに……と思い見上げたところで後ろのドアがプシューっと音を立てて閉まる。

「ここだと駅につくたびにドアが開いて面倒くさいよ」
「たった四駅だろ。我慢しろ」
「っていうか、出入りする人の邪魔にもなる……」
「俺の知ったことじゃねーし」

言いぐさに呆れ「暴君か」と力なくツッコんだあと、ふぅ、と息をつき周りを見渡す。
割合的にサラリーマンが多く、たまに見える女性客はうんざりとした顔で俯いていた。

女性同士ならまだしも、知らない男性と身体が触れ合うのは、相手に下心がなくても嫌なものだ。

私もつい先日、意識的に触られてるんだか、それとも偶然あたってしまうだけなのか……っていう際どい体験をして以来、よけいに周りの乗客を意識するようになってしまった。

その時は結局、四駅お尻を触られているんだか分からない状態で電車に揺られるしかできなかったけれど。

そう考えてから……ゆっくりと目の前に立つ涼太を見上げる。
その話は、菜穂と涼太とご飯を一緒に食べたときに話した。