鈴音は星羅のように怒りのまま睨みつけることもせず、ただ感情が読み取れない顔をして星羅を見つめる。
そして、怯える目をする星羅へ静かに微笑みを向けた。
星羅はその笑顔に背筋を震わせる。
その場にいられなくなって、走り去ってしまった。
星羅がいなくなっても、鈴音は視線で追うことすらしない。
微動だにしない鈴音を柳多はなにか言いたげな瞳を向けていた。
鈴音は柳多の視線にも気づいていたが、特に問い掛けることもせずエレベーターのボタンに手を伸ばす。
すぐに扉が開き、鈴音は先に乗り込んだ。柳多も後に続き、鈴音が扉を閉める。
下降し始めるエレベーター内で、鈴音が不意に零した。
「彼の前から姿を消せば、これまでのことはなにもかも、なかったことになる」
柳多は正面を見たままの鈴音を凝視する。
「……気づいてしまいましたか」
「そろそろ私にバレることくらい、柳多さんは想定済だったんでしょう」
鈴音はクスリと笑い、階数表示ランプの『1』が点灯したのを確認してエレベーターを降りた。
そして振り返ることもせずに出口へ向かう。
柳多は姿勢がよく美しい鈴音の後ろ姿を見つめる。
突如足を止めた鈴音が、背中越しにぽつりと言った。
「けれど、あの傷や指輪を見れば、きっと忍さんは私を思い出しちゃいますよね」
思わず小さく笑いを零し、柔らかく目を細める。
視線を落とした拍子に自分の手が視界に映り込み、そっと左手を動かした。
薬指にはまだ新しい結婚指輪。たった数日しかつけていないのに、もう自分の一部のようになっている。
慣れというものは怖い。
鈴音は改めて感じ、指輪を覆い隠すように右手を乗せた。そして、続ける。
「それがうれしいと思うなんて……私って怖い女です」
柳多から微かに見えた鈴音の横顔は、口元に笑みを浮かべていた。
話をする声も口調も落ち着いていて、一見なんでもないことのように思えた。
しかし、柳多の目に映った鈴音の背中は泣いているようにしか見えない。
鈴音は再び歩き出し、数メートル進んだところでようやく柳多と向き合う。
「ありがとうございます。ここでいいですから。失礼します」
たおやかに礼をし、黒髪を靡かせ去っていく。
鈴音が外に出た直後、追いかけてきた柳多が鈴音の腕を掴んだ。
そして、怯える目をする星羅へ静かに微笑みを向けた。
星羅はその笑顔に背筋を震わせる。
その場にいられなくなって、走り去ってしまった。
星羅がいなくなっても、鈴音は視線で追うことすらしない。
微動だにしない鈴音を柳多はなにか言いたげな瞳を向けていた。
鈴音は柳多の視線にも気づいていたが、特に問い掛けることもせずエレベーターのボタンに手を伸ばす。
すぐに扉が開き、鈴音は先に乗り込んだ。柳多も後に続き、鈴音が扉を閉める。
下降し始めるエレベーター内で、鈴音が不意に零した。
「彼の前から姿を消せば、これまでのことはなにもかも、なかったことになる」
柳多は正面を見たままの鈴音を凝視する。
「……気づいてしまいましたか」
「そろそろ私にバレることくらい、柳多さんは想定済だったんでしょう」
鈴音はクスリと笑い、階数表示ランプの『1』が点灯したのを確認してエレベーターを降りた。
そして振り返ることもせずに出口へ向かう。
柳多は姿勢がよく美しい鈴音の後ろ姿を見つめる。
突如足を止めた鈴音が、背中越しにぽつりと言った。
「けれど、あの傷や指輪を見れば、きっと忍さんは私を思い出しちゃいますよね」
思わず小さく笑いを零し、柔らかく目を細める。
視線を落とした拍子に自分の手が視界に映り込み、そっと左手を動かした。
薬指にはまだ新しい結婚指輪。たった数日しかつけていないのに、もう自分の一部のようになっている。
慣れというものは怖い。
鈴音は改めて感じ、指輪を覆い隠すように右手を乗せた。そして、続ける。
「それがうれしいと思うなんて……私って怖い女です」
柳多から微かに見えた鈴音の横顔は、口元に笑みを浮かべていた。
話をする声も口調も落ち着いていて、一見なんでもないことのように思えた。
しかし、柳多の目に映った鈴音の背中は泣いているようにしか見えない。
鈴音は再び歩き出し、数メートル進んだところでようやく柳多と向き合う。
「ありがとうございます。ここでいいですから。失礼します」
たおやかに礼をし、黒髪を靡かせ去っていく。
鈴音が外に出た直後、追いかけてきた柳多が鈴音の腕を掴んだ。



