これだけ必死になって歩いたのは一体いつぶりだろう。


鬱蒼と生い茂る竹やぶからなかなか抜け出せない。


道無き道を踏みしめながら歩くけど、竹林から視界が広がることはない。


でも、足音から遠ざかっていることは確かだ。


自分の地面を踏みしめながら歩く音だけが、耳に届く。


どれだけ広い場所なのよ……ここ。


空を見上げて太陽の方向を確認したいけれど、白いモヤがかかっていて見る事はできなかった。


帰りが遅いので、嘉さんが気がついて探しに来てくれないかと期待したけどそれすらもどうか分からないなんて。


今は前へ進むしか逃げる手立てがないんだから、この歩みを止めちゃだめ。


そう思って大きく前へ足を踏み出したら、運悪く何かに足を掴まれるように大胆に転んだ。


伊鞠くんを下敷きにしないようにと咄嗟に身を捻ったおかげで、体が軋むように痛い。


「……!」


足にじわりと広がる痛みを堪えて、胸の上で静かに眠る伊鞠くんを見る。


怪我はなさそうなその整った息を聞いて、ほっとしつつ立ち上がろうとするけれど上手く体に力が入らない。