暗黒王子と危ない夜




どういうこと、なのか。


慶一郎さんが佳遥さんと呼んだこの人もまた、慶一郎さんを見て名前を返した。


佳遥さん。

本多くんの、……お父さんの名前。



「俺の息子がここに世話になっていると聞いてね、それはただごとじゃないと、あっちの世界から還って来てみたんだ」

「……やっぱり、佳遥さん、なんですね」



男性は微笑んだ。



「生きて、いたんですか……」

「……いいや、俺は7年前に死んだよ。深川宗二に殺された」



一度、言葉を区切り、続ける。



「──そういう事になってる」


夢でも見ているような。
おそらく、この場にいる全員がそう。



「ここの先生に助けてもらったんだ。ちなみに、船で運ばれた死体は、まったくの別の人のもの」


本多くんのお父さんは生きている。

これが夢じゃないのなら。



「七瀬が無事ならよかった。それを確かめに来ただけなんだ。もう用はないよ」

「七瀬に会わないんですか」



慶一郎さんが引き止める。



「次に会うとすれば、それはあの子が死んだときかな。──必要があればまた出会うさ。だから、俺のことは幻でも見たと思っていてほしいね」



そう言い残し、今度こそ背を向ける。


扉が閉まって、取り残されたあたしたちは

……やっぱり、夢を見ている気がして。


けれど目から溢れたあつい雫が、現実だと教えてくれた。