だって。目の前にいる中島くんは、もうあたしの知っている中島くんじゃないから……。
「今ごろ本多は、深川さんが送り込んだ奴らに奇襲かけられてる頃かな。無様にやられちゃったりして。……ほんと、右手使えないのに無茶ばっかするよね」
引き笑いが廊下に響く。
今まで与えられた情報を整理すると、本多くんは何らかの事情で本部に乗り込んでいるらしく。
それを予め知っていた中島くんが、黒蘭の総長──深川という人物に、そのことを伝えて。
総長はこの第二基地に逃げて、本部に黒蘭のメンバーを送り、本多くんを潰そうとしている……?
まだわからないことがたくさんある。
黒蘭の総長は、避難のためにここへ来たと言っていた。
それは、本部に乗り込んだ本多くんと直接闘うことはせず、逃げてきたという意味に取れる。
それなのに──あたしをここへ連れてきた目的は、本多くんをこちらに呼びつけるため?
どうして?
せっかく遠い場所へ身を置いたのに、今度は自ら本多くんを呼びつけようとする意図が読めない。
何が起ころうとしているの?
尋ねても……答えてくれる人は、ここにはいない。
「本部で潰されたら、ここにはたどり着けないよね」
ひとりごとのように呟いた中島くんが、 エレベーターの前で足を止めた。
「そうなったら、相沢さんをここに連れてきた意味もなくなっちゃうよね。深川さんの計画もめちゃくちゃだ」
ボタンが押されると、間もなく扉が開く。
「そうならないことを願おう……ね、相沢さん」
ふっと笑った中島くん。
それがあまりに柔らかい笑顔だったから、言葉の意味を考える間もなく、またうっかり期待してしまいそうになる。
やっぱり本当は──。
ほのかな希望を無理やり打ち消した。
中に入ると、後ろにいたふたりに中島くんが視線を流す。
「あんた達は乗らなくていいよ。ここから先は、俺と相沢さんだけで十分」