あたしは本多くんの過去が暗いものであることは知ってる。
だけど、いつどこで何があってどんな思いをしてきたのか。細やかな事情は知らないし、これからも知ることはできないかもしれない。
それから少しして、2限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「んじゃあ、今日は帰り俺が送るからな」
「あ……うん。ありがとう」
「七瀬がいないんじゃあ、しょうがねえもんな。
ったく、今日は何やってんだか……」
「……無理してないといいんだけど」
ぞろぞろと周りが席につき始める中、次の科目の準備をしていなかったあたしは慌ててロッカーに向かおうとした。
けれど、三成がふと何かを思い出したかのようにその場に固まるので、何事かと顔を覗きこむ。
「……三成?」
「……」
「授業、始まるよ?」
声をかけても反応がない。
口を固く結んでうつむいている。
「……あの、」
「思い出した……」
やっと聞こえたのは、絞り出すようなひどくかすれた声。
「今日は、七瀬の父親が失踪した日だ」
そういうと、ふらりと教室を出で行こうとする。
その袖口を思わず掴んだ。
「三成?」
「……確か、ちょうど7年前のはずだ」
虚ろな瞳があたしをとらえる。
支軸が、定まっていないような。
「なあ、萌葉。“失踪してから7年経った”。これが何意味するか分かるか」
「……、分からない、けど」
ただ、今から三成が口にしようとしている言葉は、聞きたくない。
だって、その唇が震えている。
「法律上、死んだとみなされる」