暗黒王子と危ない夜


階段の塗装はところどころ剥がれていて、酸化した鉄のにおいが鼻につく。

慶一郎さんを先頭に上って、扉の前に立つと、下から吹き抜けてきた風があたしのスカートを揺らした。

隣に立つ慶一郎さんの顔をちらりと盗み見る。



「俺、苦手なんだよね。……ここのマスター」


わかりやすく顔が歪んだ。


「勝手に入っていいんですかね?」


中島くんが遠慮気味に尋ねると、慶一郎さんはそれには答えず。


「琉生くんさ、マスターと面識あるよね?」


と、噛み合わない質問を返した。



「まあ、はい。小さい頃はずいぶん世話になりました」

「俺ここで待ってるから、琉生くんが七瀬を連れ戻して来てくれないかなあ?」


「は? やですよ」

「どうしても?」

「どうしてもです」

「だったらしょうがないか」



はは、と乾いた笑い声が響いた。



「俺にやたらと厳しいんだよねーあの人」


ガチャリと音を立ててドアノブが回る。


「……七瀬は懐いてるみたいだけど」


そんな言葉と同時、扉の向こうに、薄く光るオレンジの明かりが見えた。