市役所に向かう途中の道のり、最短距離ではなく、近所の住宅街を通る。

僕たちが通っていた小学校から、1番近い小学校の校区内。

そこのとある一軒家の1階が駄菓子屋になっている。



遠足の時にはお菓子をひとつおまけしてくれることから、ここらの小学生は遠足となればみんなこぞってそこに足を運んだものだ。

優しい夫婦で営むその店は、僕たちにとって思い出深い場所。

久しく訪れていなかったけど、どんな様子だろう。



「懐かしいね」



そう言えば、ちひろから「うん」と言葉を返される。

そして自然と思い返すのは、あの頃。



幼かった僕たちの出会いは、ほとんど覚えていない。

ちひろが3歳、僕が5歳とまだお互いに幼稚園に通っていた時で、当時の記憶はずいぶんと薄れてしまっているんだ。



ただ覚えているのは、彼女が僕の隣の家に越してきたこと。

母親の陰からひょこりと顔を出し、はにかんでいた表情に向けて、僕は確か掌を差し出した。

ひとりっ子だったことからまるで妹ができたように嬉しく、どこに行くのもふたりで一緒だった。



今と違い、あの頃はちひろも肌を見せることに躊躇していなかった。

無防備にさらけ出されていた足、腕、そのすべてはほんのわずかに焼けて健康的な色をしていた。



成長と共に隠されるようになった肌。

彼女に告げたことはないけど、それに慈しむように、癒すように触れられたらと考えたことは1度や2度じゃない。



だけど僕たちはそんなことができる関係じゃない。

僕ができるのは、彼女を土手まで迎えに行くことと、その場限りの手当てだけ。

本当の意味で守ることなどできやしない。



僕の手にあるものは、とても少ない。