息がもれる。

はあっと熱いような、ひゅうと吸いこむような、温度と音が混じりあう。



息が苦しくて、たったの1歩進むことに一苦労する。

鏡を見ずとも顔色がいつもと違うことがわかる。



「正人、大丈夫?」



不安そうな表情をしているちひろにへらりと笑ってみせるも、きちんと笑顔を作れていなかったのか、彼女の眉が下がる。



今はまだ、次の目的地に向かう途中。

高台の公園への道のりの、坂道で。

僕は体力が尽きてしまい、足取りが重くなってしまったんだ。



嫌だなぁ、情けない。

こんなふうになってしまうなんて、そんなのは今日の予定に組みこまれていないっていうのに。



「だいぶ体力が落ちていたみたい。
今日は久しぶりに動き回っていたから、ちょっと疲れが出ちゃったかな」



高校3年生は、運動量ががくんと下がる年齢だ。

受験が学校生活の中でメインになり、体育なんてあってないようなもの。

夏の水泳も、冬の持久走もなくなった。



中学も高校も、持久走のせいで風邪を引く人が多数いたから正しい判断だとは思うけど。

それでもこんなに体力が落ちるようで大丈夫か不安に感じる。



「運動不足ってだめだね。
受験生なんて特に自由登校になったりして1日中ベッド、なんていうのもあったし」

「そう……」

「ちひろも来年は気をつけた方がいいよ」



肝に命じておく、と言う彼女の表情は隠しようもないほど暗い。

それを見て、僕は静かに息をつめた。



本当は、こんな表情なんて見たくない。させたくない。

だけど明るくて楽しいだけの時間を作るのは、僕には難しいみたいだ。

わかってはいたけれど、悔しい。そしてとてもやるせない。