どうしよう、どっちから食べようかな。


「瀧川さんはどちらから召し上がります?」

「そうですね、ガトーショコラの方がパイより甘くなさそうですから、ガトーショコラからいただこうと思います」


甘い方を後に残しておくのは、美味しく食べたいときの鉄則である。


「そっか、そうですね。ありがとうございます、私もガトーショコラからにします」

「いいえ」


瀧川さんはクロック・ムッシュを、私はガトーショコラを一口ぶん切り分けた。


目を合わせて、笑って、ふたりで一緒にそっと口に運び、顔を見合わせる。


美味しい、とにこにこ思い切り笑み崩れると、瀧川さんが笑いをかみ殺そうとして失敗した。


「失礼」


顔を横にそらして、ひそやかな笑いが収まるまで呼吸を懸命に整えている。


「いえ。あの……?」


そ、そんなにひどい顔をしてましたか。


その自覚は若干ある。思わず顔に手を当てて変な表情をした私に、違うんですよ、とやっぱり微笑みながら訂正。


「すみません、癒されるなと思って」

「い、癒され……?」


すごい言葉が返ってきて固まったら、まだ言葉尻に淡く笑いがにじんでいる瀧川さんが、ええ、と頷いた。


「立花さんはいつも幸せそうに召し上がるので」

「……そうですか?」


美味しそうじゃなくて幸せそうなあたり、喜んでいいのか悪いのか。


「ええ。嬉しそうというか。ご一緒しているとこちらまで幸せだな、美味しいなって思います」

「ありがとうございます……?」


立花さんはいつも素敵だなってことです、と瀧川さんは締めくくった。私は撃沈した。