「ご来店ありがとうございます。一名様でよろしいでしょうか」

「いえ、待ち合わせをしておりまして。瀧川と申します」


……うっ、瀧川って名乗るの、妙に緊張する。こう、ほら、あれだよね。ね。


内心もだもだしながら、静かな顔を保つ。


「瀧川様ですね。かしこまりました。お席にご案内いたします」


上品に微笑んだ店員さんが一礼して、こちらでございます、と揃えた手のひらで指し示してから、両手を前で揃えて誘導し始めた。


すごい。おそろしくきびきびしている。


普段はこんなに丁寧な対応をしてもらえるお店に行かない。

もっとこう、さらっと入って、コートはバッグと一緒にかごに置いて、席は好きなところに座ってね、みたいな感じ。


気軽なお店ばかりなので、慣れない上品さに自分が場違いな気さえする。


……別の意味でも緊張してきた。


なんとか顔に出ないように一生懸命表情を作って、私もなるべく上品な感じを意識しながら、背筋の伸びた店員さんの背中を追った。