悲しみにまかせてペダルをこいでいると、気が付けば海が見えてきていた。


あぁ、またここに来ちゃったのか。


朝日は昇り、車や歩行者の数が増えてきていることにも気が付いた。


もう出勤時間なんだ……。


あたしはパジャマ姿のままここまで来てしまった事を思い出した。


髪の毛だってボサボサのままだ。


だけど、そんな事どうでもよかった。


どうせみんな、あたしのことなんて見ていない。


冬の海はとても寒くて、自転車から降りるとさすがに震えた。


だけどここまで来たことをあたしは後悔なんてしていなかった。


自転車に飛び乗って逃げ出した時から、もう家に帰る事なんて考えていなかったから。


このままどこまでも行ってしまいたい。


『過去ポスト』という一度見えた希望が消えてしまった今のあたしは、心の中に大きな穴が空いているのと同じ状態だった。