そんな変なことを考えてしまった自分がおかしくて、わたしはそれをかき消すように口を開いた。

「あなたは? あなたの名前は?」

彼は微笑んだまま、また小石を使って地面に字を書く。

『天音』

わたしの名前を書いたときよりもずっと小さくて、控えめな字だった。

「あまね、って読むの?」

訊ねると、彼が小さくうなずく。

「天から降ってくる音、かな。素敵な名前だね。あなたにとても似合ってる」

そう言うと、彼はぱちりと瞬きをした。

その瞳が、また潤んだように見えた。

わたしの涙はすっかり乾いていた。

あんなに心が波立っていたのに、今は何事もなかったように穏やかに凪いでいる。

向かい合って地面にしゃがみこんでいる彼――天音を見つめる。

彼も私を見つめている。

きっとまた、今日と同じように苦しい思いをする日がくるんだろうけど。

でも、彼のことを思い出せば、少しは気が楽になるような気がした。

彼の歌声と、その笑顔を思い出せば。