「みんな〜っ!!今日はあたしらのラストライブに来てくれてありがとーっ!!」


リミさんが言ったその一言で、わぁっと燃え上がるようにあたりが沸いた。

明らかに要領オーバーのライブハウス。ひしめく人の渦。押しつぶされて中身が飛び出そうだ。洲たちのバンドの人気っぷりはあたしの予想以上だった。

期待に輝く観客の目。その期待を一心に集める、ステージ上。

このなんとも言えない雰囲気に、あたしもソワソワとして、心を落ち着かせることができない。

舞台上の洲は、あたしの知っている洲とはまるで違う人になってしまったみたいだ。俯き顔でサックスを構える彼は、とてつもなく大人びていた。


マイクを握るリミさん。そして大きく息を吸いこむ。

水を打ったように静まり返る観客。


張った空気の中、芽吹くようにリミさんのソロが始まった。



 その夢を叶えたい たった一人の自分のために 

 「あきらめない」 その言葉が自分という価値に変わる



一気に芽吹いたように、加わる旋律。

刻まれるビート。唸るギター。息づく低音。目覚めるような、サックスの音。

空気の流れが変わる。鳥肌が立つ。足場をもぎ取られたように、あたしはその生まれ出た世界に投げ出された。


心が揺れるって、きっとこういうこと。


『サックス吹くの、すっげー好きだからさ』


夢に向かって真っすぐ突き進む、洲たちを見た気がした。

真っ直ぐ、ひたすらに前を見て。よそ見なんてする暇もないほど。


すごくすごく、格好良かった。胸の奥が焼けつくように熱い。

手を振り上げて音の波に乗る観客たちの中、魂が抜け出てしまったように、ただ棒立ちになっていた自分。

気がついたら、頬を涙が伝っていた。


─ずっとずっと、洲の夢を応援してる。

あたしも頑張るから。負けないで、頑張って…今度はあたしから、胸を張って会いに行くからね。


きっとこれから怒涛のように流れゆく日々が洲を待っている。その日々の中で、たまにでいい。ふと、あたしのことを思い出してほしい。


一緒に奏でた、あの夜の瞬間を、覚えていてほしい。


流れる涙を拭うこともせず、そう、思った。






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