恋文参考書





ああ、そうか。

金井はあたしとの約束をちゃんと守ってくれているんだ。



乗り気じゃなかったのに、なんとか思っていることを言葉にして。

本番なんてひとりじゃできないから、せめてと下書き段階のものを持ってきて。



たくさんの悪口みたいな本音に紛れた想いに、優しさに、『感謝してる』なんてかた苦しい言葉を選んで気軽に『ありがとう』とは書けない不器用さに。

胸がほわほわとあたたかくなる。

自然と笑顔になる。



もう1度ルーズリーフの手紙に視線を落とす。

さっきとは違い、薄っぺらだったはずの紙につまった価値に言葉が出ない。



……なんだよもう、嬉しいじゃない。



「……ばかにしてんだろ」

「してないよ! 嬉しいもん!」



どうだか、なんて金井は疑っているけど、本当に。

心から思っている。



「素直になることは、いいことだよ?」



だから照れなくていいよ。



だらしなく笑うと、いやそうな表情をして金井は顔を背ける。

そんなふうにしたって無駄だぞ〜、あたしはもう見せかけでしかないって知っているんだからな〜。



心の中で彼に変な絡みをして、本気で気持ち悪いことになっているんだろうとは思うけど……許して欲しい。

だって、わざわざ喜びを隠す理由なんてないでしょう?

あたしは気持ちを、そのまま全身で伝えたいよ。



どくどく、と流れる血液に乗って、心が満ち足りていく。

だけど照れているにしても不自然なほど目の前の金井と目があわず、思わず彼の視線の先をたどった。