完全に別の空間にいるわけじゃないけど、とりあえず部員の視界から逃れ、金井とふたりきりになれたことにほっとする。
深く息を吐き出したあと、そっと視線をあげてなんなんだと言いたげな表情の彼を見つめる。
なんなんだって言いたいのはあたしの方だけどね!
まったく……と思っていると、金井は興味深そうに部室を机の陰から見回す。
地学教室なんて身近じゃないだろうし、気になるんだろう。
卒業生の先輩たちが詩・小説のフレーズやらを好き勝手に書きこんでいったままの後ろの黒板に、大量の紙束が積まれた教卓。
整理はされているけど生活感があるというか、全てがしまいこまれてはいないこの場所があたしたちには慣れたものだけど金井は違うんだよなぁ。
そんなことより金井には危機感を持って欲しいんだけどね、あたしは。
色を抜いているくせに柔らかそうな髪。
それが落ちるきめ細やかな肌。
見つめているとようやく満足したのか、彼の視線がこちらに戻ってくる。
「それで、どうしたの?
詩乃に引っ張られていくところ見てたし、今日は諦めると思っていたよ」
あたしが詩乃に勝てるわけもないし、金井がまさかここまでするなんて。
思うわけないじゃない。
「……ん」
首を傾げていると、ポケットから小さく折りたたまれていた紙を彼が取り出す。
無造作に掌の中に押しつけられ、なにやらルーズリーフらしいと確認したところで、金井の様子を伺いながらぺらりと開いた。

