恋文参考書





部員の視線をものともせず、金井は首を回す。

そうしてあたしと目があったところでその動きはとまった。



そうだよね、この中で探しているのなんてあたししかいないよね。

わざわざここまで来てくれたなんて、助かるなぁ。



「……いやいや! なにしてんの!」



一瞬現実逃避しちゃったけど、よくよく考えればわけわからん!

金井ってばなにしてんの!



せっかく詩乃たちを誤魔化したっていうのに、本人がこんなところまで来ちゃったら意味ないよ。

こいつ、ラブレターのことを隠す気はあるのかな。


慌てて金井の立つ扉へ向かい、彼を部室から追い出そうとする。

だけど廊下に顔を出し、あたしはぴたりと固まる。



部室……つまり地学教室のある4階には放課後、人がいる。

楽器を扱う吹奏楽部と軽音楽部の練習に使われるからだ。

しかもこの音楽系の部活の方々、人数が多いんだ。



こんな目立つところに金井とふたりで立つ?

話をする?

……どう考えてもありえない。



背中を押そうとしていた手をとめて、彼の黒のパーカーをつかんだ。

そしてそのまま金井を部室の中に押しこんだ。



ずんずんと教室内を進み、後ろの黒板のところに来たところで足をとめる。

黙りこんだまま、だけどあたしの行動をじっと見守り注目している部員に一言。



「あたしたちはいないと思ってて!」



いや、無理だよ! というみんなのツッコミは無視して、金井と共に机の陰に隠れるようにしゃがみこんだ。