「勘違いすんな」
「え?」
前から聞こえる声に反応するも、金井が振り向く雰囲気はない。
だけどそのまま言葉は落とされる。
「別にお前のためだけにしたんじゃねぇから」
「っ、」
「あいつの女好きに呆れてるのと、お前がいないと俺が困るから。……そんだけだ」
あたしは、声を失う。
なんて、なんて返せばいい。
そっかって、わかったって、勘違いなんてしてないよって。
言えばいいのに、……できなかった。
「〜〜ずっるいなぁ」
「は?」
このツンデレめ!
典型的なセリフを吐きやがって!
ちょっとだけ、……ううん、本当はとても。
胸がきゅうきゅうと締めつけられた。
言葉を扱うことが苦手だという君の精一杯の優しさ。
なにもかも素直じゃないからこそ、1度の気づかいにこんなにも価値が生まれる。
悔しい。
不意打ちにやられた。
「……ありがとう」
ぽつりと呟く。
かすかに震えて、だけど金井の耳には確かに届く。
だってこんなにも近くにいるんだから。
「あたしのためじゃなかったとしても、嬉しかった。助かったよ!」
へへっと笑みがこぼれる。
金井は手を繋いでいることをおそらく忘れていることに気づいていながら、そのぬくもりが心地よい。
黙っていることにしようっと。
「……そりゃよかったな」
多分、きっと今、金井は怒ったような困ったような顔をしながら、照れているんじゃないかなぁ。
なんて、あたしはそう思った。

