恋文参考書





収拾がつかなくなっているこの状況で、打開策はない。

どうしたものか、と思っていると、戸川の腕をつかんでいたはずのあつい掌があたしのそれを包みこむ。



そして声をあげる暇さえもなく教室から連れ出される。



「あー、逃げられちゃった」

「なに呑気なことを言っているの」



ふたりの声は背中を撫でるようにかすめたけれど、捕まることはなかった。



しばらくふたりで廊下を走り抜け、教室から離れたところで、彼の手をくんと引く。

スピードを緩めるけど歩き続ける金井に手を引かれたまま足を進める。



「あんなことして、噂になったらどうするの」



ひっそりこっそりばかだとは思っていたけど、考えなしにもほどがある。

手を繋いで逃避行ってなにごとよ!



「なに、お前、困ってなかったのか?」

「まぁ困っては、いたけど……」



もしかして、あたしのせい?

それで金井はあんなことをしたって言うの?



確かにどうしようと思っていた。

なんならなんとかしやがれ金井のバカヤロウくらいは思っていた。

でも、本当にそこまで求めていたわけじゃなかったのに。



あたしのためにそんなリスクを背負うことなかったのに、なぁ。



どんな表情をすればいいのかわからない。

きゅうと唇に歯を立てる。