あたしがひとり、思いがけず心に広がった感情に口元を緩ませていると、薫先輩は小さく声をあげる。



「そういえば、ふたりはなにをしていたの?」



その瞬間、あたしの肩は跳ね上がり、表情は固まる。

金井は意外にもポーカーフェイスなのかと思いきや、恋文参考書を覗きこもうとした薫先輩の目の前でぱしんっと音がするほど勢いよくページを閉じた。

そのまま即座にあたしにそれを押しつけて、席を立った。



「帰れ」

「わっ、急になに?」

「いいから帰れ」



ぐいぐいと薫先輩の背中を押して、机の間をぬって歩く。

本気で抵抗していない彼女は金井に不思議そうな視線をやりながら、廊下へと向かった。



「生徒会の手伝いなんかどうせまだ終わってねぇんだろ。さっさと戻れ」

「はいはい、わかったから押さないで」



薫先輩は仕方がないなぁとため息を吐いた。

金井の態度を一切気にしないっていうんだから、この人はこんな見た目で最強なんだね。



すごい、とふたりをぼんやりと見ていると、薫先輩はあたしにひらひらと白い手を振った。



「それじゃあ彩ちゃん、またね」

「あっはい! また!」



そのまま金井は彼女の手をつかみ、おそらく生徒会室まで向かった。



……あたしは放置かーい。



やれやれ、と肩をすくめて意味もなく恋文参考書のページをぺらりとめくった。