ぱちん、とウインクをひとつ。

木下先生だから許される行為に意識を向けることもできず、頰に熱が集中する。

恥ずかしさのあまり、あたしはその場でしゃがみこんだ。



「もしかして知られたくなかったの?
それなら、今後は気をつけた方がいいと思うわ」



今後は。

なんて、そんなの、もうありえない。

胸に突き刺さる言葉にしくしくと痛みを感じた。



「大丈夫です。
もうあそこで会うことはないんで」



うつむいたまま、事実をのどの奥からしぼり出す。

ぎゅうと息が苦しくて、未練たらしい自分がいやになる。



はじめから、わかっていたことなのにね。

期間限定の関係にこんなにもすがって、ばかみたいだ。



あたしの様子がおかしいことに気づいているのか、木下先生はあそこで会うことがないという発言には触れない。



「自分で言うのもなんですが、不思議な組み合わせでしたよね」

「いいえ。ふたりともこっちの図書館じゃ物足りないのも当然だって思っていたわよ」



……こっちの図書館じゃ、物足りない?

それっていったいどういうことなんだろう。



ちらりと視線を上げれば、膝に手をついて木下先生はほんの少し驚いている。



「日生さん、もしかして知らなかった?
金井くん、たまに図書館利用してくれるのよ」