は? と章が眉をひそめる。

ばかにするように、呆れたように、息をもらしてまともに取りあう気はなさそうだ。



「それって薫に出すやつの?」

「もちろん。もしかしてもう用意しているの?」



それならそれでいいんだけど。

……でも、まぁ、章のこの様子を見る限り、用意しているとは思えない。



「探せば家になんかあるだろ」

「それじゃだめ!」



勢い余って立ち上がると共にがたん、と椅子が大きな音を立てる。

倒れることはなかったそれを気にとめることなく、章の前に手をついた。



「なんでそんな……」

「だって、章が書くのは他とは違うじゃない。
相手のことを想う、特別な手紙でしょう?」



昔なら少なくなかったかもしれないけど、今の世の中じゃメールやLINEでの告白ばかり。

直接告げる人もいるけど、お手軽なものに頼りがちで、わざわざペンを手にすることなんて滅多にない。



ラブレターって、すごいんだよ。

とても、とても素敵なんだよ。



「それなら、便箋だって封筒だって、その人のためだけに用意しないと」



想いを乗せる、その場所は自分で選び取る。

ここまできたら、できる限りのことはやり尽くそう。