ふとさっきのアップルパイを思い出して、わけもなく意地を張ってしまう。


そしたらかーくんは急にムッとした顔になって、低い声で聞いてきた。



「…は?俺にはって…他に誰かあげるやついんの?」



なぜか怒ってるみたいな口調だし。


しかも、まだ学校にいるっていうのに、執事モードはどこかにいっちゃってるし。



「うっ…。し、紫苑にあげる…」



苦し紛れに、思いつきでそう答えたら、かーくんはさらに顔をしかめる。


同時に片手を差し出してきて。



「じゃあ俺にもちょうだい」



「えっ…」



いつも思うけど、紫苑の名前を出すとかーくんが不機嫌になるのはなんでなんだろう。



「い、嫌だよっ」



頑なに拒否したら、かーくんもまたムキになったように言い返してきた。



「なんでだよ。つーか、なにいきなり怒ってんだよ」



ジッと顔を覗き込まれて。



だけど、私だって折れられない。


だってだって、かーくんは…



「甘いものなんて、好きじゃ、ないくせに…」



「え?」



「かーくんは、美味しいアップルパイもらったんだから、それ食べればいいでしょっ!!」