「ただいま」



今日は、午後の授業が無く、アルバイトも休み。


久しぶりに明るいうちに家に帰ってきた。



お母さんは買い物に行っているのか、家には誰もいなかった。



鍵を開け、ローファーとカバンを自分の部屋に投げ入れ、再び鍵を閉めてから。


私は、お兄ちゃんの部屋に入った。



机にベッド、制服がかけられたハンガーラックに、教科書が入ったカラーボックス。


彼が死んでしまってからも、何も変えないまま存在している空間。



「お兄ちゃん」



もちろん返事はない。



彼を呼ぶことは、私が私自身を慰めているだけの行為だ。


お兄ちゃんは骨だけになったのだから。



制服のままベッドに転がり、布団にくるまった。


視界がにじんでいく。


お兄ちゃんの温もりは、まだ心と体がはっきりと覚えていた。