玄関をくぐって、真っ先に浴室へ向かった。

洗面台の熱い湯で手を温めたあと、ゆっくりと顔を洗う。

濡れた前髪を後ろになでつけた。



鏡に映った、余裕のない自分の表情にイライラする。

父親と顔を合わせるってだけで、緊張して、冷静じゃいられないなんて。



タオルで顔を拭き部屋を出ようとしたとき、入れ違いで依吹が入ってきた。


ちらりとこちらを見上げてくる。



「……父さん、兄ちゃんと二人きりで食事とりたいって」

「……そう」

「うん。……それと」

「……」



また、さっきと同じ目で見てくる。

何か言いたそうで、でも躊躇うように揺れている。




「……なんなの、さっきから。言いたいことあるなら言え」



依吹はうつむいた。

それから、か弱い声で小さくつぶやく。




「兄ちゃんは、絶対、あさちゃんを傷つけるようなこと……しないよね?」