……雨が降ってるのか。
ザァザァと雨が窓を叩きつける音で目が覚めた。

今日が“人生最後の日”。

ベッドから起き上がり空を睨んだ。
太陽は遠い彼方、か。
いつもよりも早く目が覚めて、まだ鳴っていない目覚ましを止める。
ついでにそのままパジャマを脱ぎ捨てて着替えを済ませる。
机の引き出しに仕舞ったノートを出してパラリとめくる。
綴られた自分の文字、伝えたい言葉の詰まったノート。
私の大切な人たちが、どうか明日も明後日も笑っていられますように。
私は願い、同じ場所にノートを戻した。
どこかスッキリとしている部屋を後にして、ご飯の炊き上がる匂いのする食卓へと降りる。
ちょうど両親は仏壇に手を合わせるところで、私は声をかけた。

「おはよ」
「おぉ、おはよう。早いな?」
「あら?千夜子、もう起きるの?」
「うん。今日会社休んだし、ちょっと街まで行ってくるよ」
「それにしたってずいぶん早いじゃない。ま、いいわ。それならもう一緒に拝んで食べちゃいましょ」

母の言葉を合図に、揃って仏壇に向き、手を合わせる。
チーンと響くお鈴の音にすっと心を撫でられる。


「……今日は千夜子の誕生日ね」
「おめでとう」
「ありがとう。……私を、産んでくれてありがとう」
「よくまぁ育ったわね。私たちのもとに生まれてくれて、ありがとうね。お誕生日おめでとう」

座ったまま、両親がお祝いを言ってくれる。
今までお祝いの言葉に対して“ありがとう”と言ってきたけれど、今日の“ありがとう”はどこか違う。
この世界に産んでくれてありがとう。
ヒナちゃんと姉妹にしてくれてありがとう。
あなたたちの元に産んでくれてありがとう。
誕生日のありがとうって、そんな意味を持っているのだと初めて知った。

最後、ということに怯えることなく、いつもと同じように今日を生きよう。