あの出来事から数日。黒崎くんは学校にきていない。


思えばサボりの常習だったはずの黒崎くんがここの所真面目に授業に出てたんだと気づいたのは、久々に姿を見せなくなったから。

そのくらい、あたしの隣に馴染んでいた。


いつもそこにいたのに……。


……さみしいな。

空席の右隣を見れば、いつでも胸がそう訴えてきて。


『愛してくれる人の側にいるのが一番幸せだよねっ』

万葉ちゃんの言葉が、あたしを責めるように蘇る。


あたしだってそう思うよ。

絶対そうに決まってる。


だからって……この想いを抱いたまま律くんとつき合い続けるのも卑怯だと思う。

だってこれじゃあ、少し前に律くんに不信感を抱いてたことに矛盾する。

他に好きな人が居ながら、カモフラージュの為にあたしと付き合ってると思っていたそのままのことを、あたしがやってるんだから。




「うわー、どうしてこんな高いとこに書くかなー」



背の高い数学の先生が書いた文字に、今日も日直の女の子が苦戦していた。

黒板消しを片手に一生懸命背伸びしてるけど、上の文字にまで届かない。



「放っておいたら?そのうち誰かが消してくれるよ」


「じゃあそうする!」



友達に言われ、その子は文字を残したまま諦めて黒板消しを定位置に戻した。



……そうだね。

今すぐには難しくても、あたしの想いは時間をかければいつかは薄くなって……そのうち消えていくはず。

このまま黒崎くんに会わなければこの想いも消えていく。

誰かが……そう、律くんが消してくれるかもしれない。


一時の熱に浮かされてるだけ。


だからあたしはただ。

この気持ちがなくなるのをひたすら待てばいいんだ……。