「行こう、明日花」


健があたしの手を握る。


「うん」


あたしは健の手を握り返す。


ヘリに乗り込むと、お父さんが目を細めてほほ笑んだ。


「早く乗ってください」


健が言う。


しかし、お父さんは左右に首を振ったのだ。


「わたしはここに残る。マミが死んだこの建物で最期を待つことにしたんだ」


「何を言ってるんですか?」


あたしは戸惑ながらもそう言い、手を伸ばす。


しかし、その手が掴まれることはなかった。


「臓器売買という組織に対抗するためには、更に大きな組織に力を借りるしかなかったんだよ。そしてその引き換えは、わたしの命だ」


お父さんはそう言い、自分の胸に手を当てた。


今はまだ動いているその心臓。


それを、妻のため、娘の思い出のために捨てる事を決意したのだ。


「あたしが死ぬ映像も、どこかで見られている。異常者の集まりのパーティー会場で流されるそうだ」


「そ……んな……」


「大丈夫。わたしにはもう何も残っていないんだから。君たちにマミの記憶が戻った事で、安心してこの命を差し出す事ができるよ」


お父さんがそう言い、自分の手でヘリのドアを閉めたのだった……。