山下くんの背中を見つめながら数秒間ポカンとしたのち、私は慌てて廊下に出て追いかけた。
屋上。
よみがえる記憶。
夕焼け。ひざ枕。山下くんの寝顔。さらさらの髪。赤いピアス。胸の、ドキドキ。
「あした、行くの」
「えっ」
屋上に続く非常階段で、低い声が耳に届いた。
カンカン、とあの日と同じように足音が響いて、まるでせまい世界に二人きりのような、そんな錯覚に陥る。
「ほんとに大倉と行くの」
言葉と同時に、山下くんの大きな手で扉が開かれた。
風が吹く。髪が揺れる。
世界が全部オレンジに染まって、山下くんが眩しい。キラキラして、逆光で顔はよく見えなくて、それでも目を逸らせない。



