「遠山、机遠い」


「………」


「なんで離したんだよ」


「………」


「……無視しないで遠山」


「………」




教室に戻ってきた山下くん。


席についた途端ふわっと香る匂いは、山下くんだけのものじゃなかった。




クソ山下。
きらいきらいきらい大ッきらい。




「ねぇ、遠山ってば」




うるさいし。私に構わないでいーから!
いつもみたいに眠ってよ早く!!



そして静まれ私の心臓!
いつまでこんなヤツにドキドキしてるのー!!




「……チッ」



えっ今の舌打ち──。





「いーかげんにしろ愛音」




掴まれた手首。低い声。


それより何より、


今、名前呼んだ……。




「俺、なんかした?」



不覚にも顔を上げてしまった。


ドン、と心臓が音をたてる。



山下くんの綺麗な瞳がわずかに揺れて、

私は一瞬でその中に捉えられた。