とりあえず、落ち着け私。
まず、大きく深呼吸しよう…。
ってだめだ。深く息吸ったり吐いたりしたらキスしてる二人に気づかれちゃう。
ここはさり気なく、静かに去らないと。
早く、早く……。
耳元で自分の心音が聞こえる。
ドクドクと脈打って、息をするのが苦しい。
キスに夢中の二人は、いまだ私に気づいていない。
やだ、目が逸らせない。
重なる唇。
腰にまわされた、白くて細い腕。
二人だけの世界。
ようやく足を翻して自分の教室前まで戻った時には、私の顔は涙で濡れていた。
「っ、山下くんのばかやろー……」
震えたその声は
静かな廊下に虚しく響いた。



