「可愛いですね。名前は?」
「モカです」
「それは素敵な名前だ」
『こおひぃ』さんが、ミネちゃんの腕の中のあたしの頭を撫でる。
あら、撫でるのも上手ね。手も大きくてごつごつしてて、だけどふわりと優しい。
この人、やっぱり格好いいなぁ。
「こんなところに、喫茶店があったんですね」
「ご近所の方ですか?」
「はい。ここから10分くらい。私コーヒー大好きなんです。嬉しい。大発見だわ」
「良かったら入りませんか? 今新しい豆が入ったところなんですよ」
「本当ですか? 飲みたい。モカちゃん、ちょっと待っててねー」
ミネちゃんがあたしを下ろす。
おいおいおーい、ちょっと、ミネちゃん。
あたしをさがしにきたんじゃないの?
なんであたしを下ろすのよーう。
不満を訴えるあたしの喉を、『こおひぃ』さんは大きな手でくすぐった。
にゃー、くすぐったい。
なんであたしの弱点しってるのよう。
「君は招き猫さんだったんだね。ありがとう」
ああん、『こおひぃ』さんもずるいよ。
そんな風に言われちゃったら、あたし、怒れないじゃないの。
「にゃおん」
仕方ないな、もう一度撫でてくれたら、大人しく待っててあげるわよ。
ツンとすまして尻尾をたてて、彼があたしを撫でてくれるのを待った。
なのに、開いた扉をミネちゃんがくぐり、その後『こぉひぃ』さんも入ってく。
あれあたしは、って思ったら、バタン、と目の前で扉がしまった。
あれ、ふたりともいっちゃった。
ちょっとぉ、撫でてくれないの?
ひどーい。
これじゃ、おとなしくなんてしてられないわ。