なんか。この人、みたことある。
ううん、嗅いだ事がある匂いって言えばいいかな。
あ、思い出した!
だいぶ前に酔ったミネちゃんをお家まで連れてきた人だ。
あの時、半分寝ちゃってるミネちゃんをベッドに乗せて、辺りをきょろきょろ見回した後、顔を近付けてた。
テレビで見た事あるもん。
そういうの『寝込みを襲う』って言うのよ。
『寝込みを襲うなんてサイテー』ってドラマの女の子言ってた。
だからこの人サイテーなんだって思って、思いっきり威嚇して追い出してやったんだった。
「モカちゃん」
弱気な声。あたしの事を怖がっているのね?
カタセくんとやらは、あたしをカゴごと奪うと小声で言った。
「頼む、モカちゃん。仲良くしよう」
「みゃあ?」
えー。イヤよう。
カタセくん、サイテーだもん。
「俺、ずっと前から君の飼い主の事好きなんだよ! 本気! 絶対幸せにするから」
「みゃーお?」
そりゃあさ、ミネちゃんはこぉひぃさんにシツレンしたばかりだけど。
逆にしばらく恋人なんていらないやーって言ってたよ。
あたしの話は理解していないのか、カタセくんは畳みかけるように続ける。
「お願いだから、協力して」
「みゃー」
イヤ。
つれなく返事をしたつもりだったのに、カタセくんは勘違いしちゃったみたい。
「ありがとう、恩に切るよ。ホラ、チーズ。ネコってチーズ好きなんだろ?」
って、銀ガミに包まれたチーズをくれた。
これ、あたし剥がせないよう。



